この記事の内容
潰瘍性大腸炎は、主として大腸の粘膜と粘膜下層におこる、原因不明の炎症性疾患です。
30歳以下の成人に多いとされていますが、小児や50歳以上でも発症することがあり、通常は血の混じった下痢などに伴い様々な全身の症状が現れます。
長期間にわたり大腸全体に炎症を生じると、癌ができるリスクもあります。
潰瘍性大腸炎の治療では、内科的な治療が中心となりますが、内科的な治療で病状がうまくコントロールできない場合に、外科的手術による治療が行われます。
この手術では、大腸すべてを取り除き、小腸で便をためるパウチと呼ばれる袋を作って肛門につなげます。多くの場合、一時的に人工肛門をつくります。
当院では、腹腔鏡手術に積極的に取り組んでいます。これまでの開腹手術と比べて傷は小さく、手術からの回復も早いと考えられていますが、手術合併症の違いなどについて、詳しく検討された研究はまだ少ないのが現状です。
開腹手術に対する腹腔鏡手術の有用性を検討するために、京都大学が中心となって現在多施設共同研究を準備しています。(腹腔鏡下大腸切除研究会プロジェクト研究)
厚生労働省による潰瘍性大腸炎外科治療指針(2016年)に書かれているように、外科治療(手術)には絶対的適応と相対的適応があります。
腸管に穴が開いたり大出血が起こったりした場合、患者さんに生命の危険があります。
このような状態で救命のために手術が必要な状態である場合に「絶対的手術適応」となります。また、内科的に症状のコントロールが難しい場合には、患者さんの生活の質(QOL)が著しく低下します。
このようなときに、QOLの向上を目的とした手術の適応を「相対的手術適応」と呼んでいます。
潰瘍性大腸炎の手術適応 | |
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絶対的手術適応 | 相対的手術適応 |
1)穿孔、大出血、中毒性巨大結腸症 | 1)難治例、薬剤の副作用 |
2)重症・劇症 | 2)腸管外病変 |
3)癌 | 3)大腸合併症(狭窄、瘻孔など) |
手術は、標準的には、大腸すべてを取り除き(大腸全摘)、小腸で便をためるパウチと呼ばれる袋を作って肛門につなげます(回腸嚢肛門吻合)。
一般的にこの吻合は縫合不全(腸と肛門のつなぎ目がくっつかず、便がお腹の中などに漏れること)のリスクが高く、多くの場合は一時的に人工肛門を造設しています(2期手術)。
この術式は患者さんの体への負担が非常に大きいため、患者さんの病状によっては手術を2~3回に分けて実施します。
大腸全摘と回腸嚢肛門吻合を1度に行います。
1回目の手術で大腸全摘と回腸嚢肛門吻合を行い、一時的人工肛門造設も行います。
2回目の手術で一時的に作っていた人工肛門を閉鎖します。
1回目の手術で直腸を除く大腸切除(大腸亜全摘)を行い、人工肛門を造設します。
2回目の手術で残りの直腸を全切除し、回腸嚢肛門吻合を行い、人工肛門を造設します。
3回目の手術で、人工肛門を閉鎖します。
クローン病は、口から肛門までの消化管のあらゆる部位で生じる、原因不明の炎症性疾患です。
潰瘍性大腸炎と異なり腸管の全層に炎症を生じるため、穿孔(腸が破れる)、瘻孔(腸管同士がつながって交通する)、膿瘍(お腹の中に膿が溜まる)、狭窄(腸が狭くなる)などの特徴的な病態が起こります。
10代後半~20代の若い方に多く発症し、小腸や大腸などの様々な部位で病変が出現します。
症状としては、腹痛、下痢、体重減少、発熱などが多いですが、他にも腸閉塞、穿孔、瘻孔、出血で発症することもあります。
クローン病は、主として内科治療が中心に行われますが、内科的治療でコントロールできない膿瘍、狭窄、瘻孔、肛門病変(痔瘻)などが生じる場合には手術が行われます。
再燃と寛解を繰り返し、手術を何度も行う可能性があるため、手術での腸管切除は最小限にとどめておく必要があります。
当院では消化器内科医師としっかりと連携をとり、手術の必要性や術式などの検討を行っています。
また、可能な限り腹腔鏡手術を積極的に行っており、患者さんの負担軽減を目指しています。痔瘻については、シリコンのテープなどを通すシートン法を主に行っています。
クローン病の手術適応 | |
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絶対的適応 | 相対的適応 |
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