2024年現在、日本国内で毎年新たに10万人以上の患者さんが胃がんと診断されています。
胃がんの治療方法は、内視鏡(胃カメラ)による治療の進歩・普及、腹腔鏡やロボット支援手術の導入、新しい抗がん剤の開発など、日々進歩を続けています。
さまざまな治療方法の中から、その患者さんに最適な治療方法を選択するためには、がんの進行度や治療方法について、患者さんご自身に理解していただくことが重要です。
このホームページは、胃がんの診断をうけた患者さんが、その診断や治療方法について理解する一助となることを目的として作成しています。
胃癌の症状・検査・治療について
胃がんの症状や検査、治療方法について京都大学医学部附属病院のYouTubeチャンネルにおいて当科の小濱が解説しておりますので、ぜひご参考になさって下さい。
私たちの取り組み
胃がんの治療が複雑となり、内視鏡、手術、抗がん剤治療など、それぞれの治療に専門の医師が対応する時代となりました。
各治療に対して高い専門性が要求されるため、ひとりの胃がん患者さんに対しても、初診の段階からチームで対応して治療方針を決定することが重要になります。
京都大学医学部附属病院では、消化器内科・腫瘍内科・放射線科・消化管外科合同の治療チーム(胃がんユニット)を結成し、定期的にカンファレンスで議論しながら治療方針を決定しています。
つまり、胃がんと診断された患者さんが初診時にどの科を受診されたとしても、迅速に胃がんユニットで議論して、適切な治療を提供できるように配慮させていただきます(図1)。
実際の治療方針として、内視鏡による切除、手術、抗がん剤治療、あるいはそれらを組み合わせる場合も少なくありません。
胃がん治療の中心は、「がんの切除」です。かなり早期の胃がんであれば内視鏡切除の適応となりますが、ある程度以上進行した状態で胃癌と診断された場合、根治的に治療するためには手術が必要となります。
しかしその手術も、腹腔鏡やロボットの進歩によって、今では開腹手術より傷が小さく、術後の痛みが軽く、精密で合併症の少ない手術が実現できるようになりました。
腹腔鏡下手術やロボット支援下手術は技術の会得に時間がかかるため、十分な経験を有する外科医のチームで治療をうけていただくことが重要であると考えています。
京都大学医学部附属病院消化管外科では、2005年より日本全国に先駆けて腹腔鏡下胃切除術を、また2011年よりロボット支援下胃切除術を導入し、これまでに1000例を超える腹腔鏡胃切除術、120例を超えるロボット支援下胃切除術を行ってきました。
国内のみならず国際学会や英文誌でもその治療成績を報告し、高い評価を得ています。
胃がんが疑われるかあるいは胃がんと診断されて当院を紹介受診された場合、まず外来にて各種検査を受けていただきます。
その後、手術治療が必要と診断されれば、消化管外科専門病棟に入院となります。胃がん手術のあとは、問題なければ一週間程度で日常生活に戻れるレベルまで回復できますが、個人差は大きく、きめ細やかな対応が必要です。
主治医団の毎日の診察に加え、術前後のケア、術後の食事摂取、内服薬の管理など、いずれも専門の看護師、栄養士、薬剤師がサポートに当たります。
また退院後も、胃がんの再発がないことを確認するまで、最低5年間は当科外来での定期診察を受けていただくこととなります。各個人の病状に合わせて、再発予防の抗がん剤治療が必要になることもあります。
京都大学消化管外科の胃がん治療の特色
対象とする疾患
- 早期胃がんから転移を有する進行胃がんまで積極的な治療をおこなっています。
前述の通り、胃癌ユニットにて議論し、複数科横断的な治療を行うことが可能です。
- 胃に発生する悪性腫瘍としては、胃の内側から発生する一般的な胃がんだけでなく、GIST(Gastrointestinal Stromal Tumor)、平滑筋肉腫などが知られており、その他胃近傍の組織から発生する悪性腫瘍として、脂肪肉腫、デスモイドなどが挙げられます。
その他、神経鞘腫や平滑筋腫などの良性腫瘍も、病状によっては治療対象となります。
他院で診断がつかず治療方針に苦慮されているケースも多く、当科紹介後に診断が確定するケースも珍しくありません。当院はこれらの比較的まれな腫瘍に対しても十分な治療経験があります
【対象疾患の例】
- 早期~進行胃がん(図2)
- GIST(図3)
- 脂肪肉腫
- 他院で診断がつかず苦慮している腹腔内腫瘍
治療の特色
- 1日でも早く日常生活に戻れるよう、傷が小さく・体に負担の少ない腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術を第一選択としています。
- 胃がん治療のエキスパート、日本内視鏡外科技術認定医の資格を持った医師が複数在籍しており、合併症が少なく・根治性の高い手術を行っています。
- 転移(腹膜播種も含む)を有する進行がんや再発がんであっても、胃がんの専門家(腫瘍内科・消化器内科・肝胆膵外科・放射線治療科)で結成される胃がんユニットで治療方法を検討し、患者さん個々に最適な治療を提案していきます。
- わかりやすい説明を心がけ、医師や看護師が入院中の生活をサポートします。ご高齢の方など退院後の生活に不安のある方は、入院の早い段階から地域ネットワークと協力して、自宅近くの病院との連携や在宅医療サービスの活用を提案して退院支援を行っています。
- 胃がんの専門家である、がん診療部(腫瘍内科・消化器内科)、肝胆膵外科、放射線治療科らの医師で結成されます。
- 毎週金曜日に、個々の患者さんの病態に応じて治療法方針を検討します。
- がんゲノム医療:標準治療が終了した局所進行がんや転移を有する患者さん、希少がんの患者さんに対して、がん細胞に起きている遺伝子の変化(がん遺伝子パネル検査)を調べます。
遺伝子解析によって、効果の期待できる治療方法(保険診療外治療も含む)を提案します。
詳しくは外来担当医にご質問ください。
腹腔鏡下手術について
- おなかの数カ所に直径5~12mmの孔を複数個所あけて、お腹を炭酸ガスでふくらませて、腹腔鏡の高画質映像(3Dや4Kなど)を見ながら行う手術のことです。
- 腹腔鏡手術の利点:従来の開腹手術と比べて、傷が小さく痛みが少ない、出血が少ない、腸の動きの回復が早いなどのメリットがあります。
手術翌日から、水分を摂っていただき、歩くことが可能となります。
- 一般的に腹腔鏡手術は早期胃がんに対して適応とされている施設が多いのが現状ですが、当科ではすべての胃がん症例に対して腹腔鏡手術を導入しています。
かなり進行した胃がんに対しても積極的に腹腔鏡手術を行い、術後短期・長期的にみても非常に良好な結果がえられたことを英語論文として報告してきました(文献1,2)。
- 文献1:Okabe H, Tsunoda S, Obama K, Tanaka E, Hisamori S, Shinohara H, Sakai Y. Feasibility of Laparoscopic Radical Gastrectomy for Gastric Cancer of Clinical Stage II or Higher: Early Outcomes in a Phase II Study (KUGC04). Ann Surg Oncol. 2016
- 文献2:Hisamori S, Okabe H, Tsunoda S, Nishigori T, Ganeko R, Fukui Y, Okamura R, Maekawa H, Sakai Y, Obama K. Long-Term Outcomes of Laparoscopic Radical Gastrectomy for Highly Advanced Gastric Cancer: Final Report of a Prospective Phase II Trial (KUGC04). Ann Surg Oncol. 2021
ロボット支援下手術について
- 腹腔鏡下手術と同じく、おなかの数カ所に直径5~12mmの孔を複数個所あけて、お腹を炭酸ガスでふくらませて行います(図4)。
- ロボット支援胃切除術では、手術支援ロボットDaVinci Xiを操作して手術を行います。腹腔内の道具に関節機能があるうえに手振れを気にする必要がないため、腹腔鏡手術よりもさらに繊細な操作が可能となり、術中の出血量もさらに少なくなっています(図5)。
- 当科ではすべての胃がん症例に対してロボット支援胃切除術を第一選択としており、その割合は年々増加しています(図6)。
進行胃がんに対しても積極的にロボット支援胃切除術を行い、その治療成績については、国内の複数の学会で高い評価を得ております。
関連施設も含めた治療成績を英語論文として報告致しました(文献3)。
ロボット支援胃切除の様子
最後に
近年の医療の進歩は目覚ましく、胃がんの診療についても、より専門的な知識・技術が要求される時代となりました。
「胃がん」という診断がついても、そのときの病状や環境も含めて、治療方針はいつも同じではありません。各部門に専門性を持ったエキスパートによる対応が必要となります。
わたしたちは、どのような病状であっても、ひとりひとりの患者さんにとって「最良」と考えられる治療を提供することを心掛けています。
胃がんといわれたら、他院で診断を受けている途中や治療方針を聞いた後など、どの段階でも結構です。ぜひわたしたちにご相談ください。